今は役に立たない。そのうち役に立つ。
人多すぎ。なんとかならんか。
花見シーズンに桜名所で撮影するカメラマンなら、一度は思ったことがあるはずだ。短い桜の旬をめがけて人が集まるわけだから混雑は当たり前なのだが。
なのに己のことは棚にあげて「人多い」とか思うのだ。口にも顔にも出さず、すれ違う同業者と笑顔で会釈しながらも、内心「もう帰ってよ」とか思っているのだ。少なくとも僕はそうだ。
桜写真を撮るときはいつもそう。混雑の中で必死にポジションを確保し、人が通り過ぎるのを待ち、待っても通り過ぎない人はフォトショップで存在を抹消しながら作ってきた。
フォトショのスタンプツールは神のふるまいだ。つまり俺は神だ。
今年の桜は撮りやすかった。
なにしろ人が少ない。場所取りのブルーシートも無い。
神たる僕のために民衆が場所を空けたのであれば、僕も「くるしゅうない」なんて微笑んだことだろう。御神輿の上からシャッターを押しただろう。
でも、人が減ったのはそういう愉快な理由からじゃ無い。そして実を言うと僕は神でもない。リアルな社会はとても切迫している。
こんな時、神じゃ無い、ただのカメラマンはつくづく無力だ。
僕は飛行機に乗る時は常に心の準備をしてきた。「お客様の中にカメラマンはおられませんか!?助けてください!」と呼び出される準備だ。しかし、そんな機会は今まで一度も無かった。
有事には役に立ちにくい職業なんだよね。そこを自覚した上で、じっと勉強し、力を蓄えるのが賢明だと思っている。
おそらく来年も僕は人間のままだが、カメラを持てば15分くらいは神がかりになれる。それくらいの修行はしてきたつもりだ。 大勢の花見客であふれ、よっぱらいが騒ぎ、露天から焼きそばの香りがしてくる中で、神がかりな写真を撮る。 来年はそうする。
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